まわりが次々とカップルになっていく。職場の飲み会では、まだ彼女いないの、そろそろ作れよ、とからかわれる。スマホを開けば、楽しそうな二人の写真が流れてくる。一人の帰り道で、ふと、誰でもいいから彼女が欲しい、と思う。その気持ちは、よく分かる。情けないことでも、おかしいことでもない。
ただ、ここで一つだけ、少し残酷かもしれないことを言わせてほしい。誰でもいい、と思っているそのスタンスこそが、あなたから彼女を遠ざけている張本人だ。なぜそうなるのかを、順番に話していく。
誰でもいいの相手は、たぶん彼女じゃない
まず、自分の気持ちの正体を見てみたい。誰でもいいから彼女が欲しい、と思うとき、あなたが本当に欲しいものは、本当に彼女だろうか。
周囲にからかわれるのが苦痛で、彼女を作ろうと動いた人が、あとで気づいたことがある。自分は、彼女がいる自分を周りに見せたかっただけだった、と。これは特別な話ではない。誰でもいい、という言葉の裏にあるのは、たいてい、この人と一緒にいたいという気持ちではなく、彼女がいない自分から抜け出したい、という気持ちだ。
つまり、欲しいのは特定の誰かではなく、今の状態からの脱出だ。だとすると、相手が誰であってもいいのは当然になる。誰でもいいわけだ。けれど、ここに最初のつまずきがある。彼女が欲しいのではなく、彼女のいない自分が嫌なだけなら、誰と付き合っても、その嫌な気持ちはたいして消えない。
求めるほど見抜かれる、という残酷な仕組み
誰でもいいという焦りが、なぜ失敗に直結するのか。理由は、思っているよりずっとシンプルだ。
誰でもいい、は相手にちゃんと伝わってしまう
これは、ほぼ必ず相手にバレる。誰でもいいモードで動いた人が、女性から言われた言葉を並べると、見事に同じだ。本気で好きじゃなかったんだね。なんか急いでる感じがする。本気で話してないよね。あげく、私じゃなくてもよかったんだ、と気づかれて去られる。
焦りは、言葉の端や、距離の詰め方や、目の真剣さに、勝手ににじみ出る。隠しているつもりでも、相手はちゃんと感じ取る。とにかく早く彼女が欲しい、という空気は、自分が思う何倍も、外に漏れている。
人は、自分の問題を解決する道具にされたくない
そして、ここが核心だ。相手の立場で考えてみてほしい。自分という人間に惹かれたのではなく、彼女という枠を埋める誰かとして選ばれている。これを感じて嬉しい人は、まずいない。
誰だって、自分を特別だと思ってほしい。代わりのきく一人としてではなく、ほかの誰でもないこの私を、と。ところが誰でもいいという姿勢は、その真逆のメッセージを送ってしまう。君じゃなくてもよかった、と。だから、ハードルを下げて誰にでも声をかけるほど、皮肉なことに、誰からも選ばれにくくなる。求める気持ちが強いほど遠ざかるのは、相手が、道具にされるのを嫌うからだ。
喉が渇いて、海水を飲むようなもの
仮に、誰でもいいで付き合えたとする。それで問題は解決するのか。体験談を見るかぎり、答えは厳しい。
孤独に耐えきれず誰でもいいと付き合った人は、相手に強く束縛され、別れたあともしこりが残った。相手のペースに合わせすぎて、自分を押し殺し、精神的に疲れ果てた人もいる。体だけの関係になって、終わったあとに虚しさだけが残った、という話もある。
なぜこうなるか。元々の渇きが、寂しさや、自分への自信のなさという、心の内側にあるものだからだ。その穴を、外から連れてきた誰かで埋めようとしても、埋まらない。むしろ、その人を、自分の心の重さを支える柱にしてしまう。支えきれるはずもなく、関係はゆがむ。喉が渇いて海水を飲むのに似ている。一瞬は満たされた気がして、そのあと、前より渇く。彼女が欲しいという気持ちが解決してくれると思っていたものは、彼女では解決しない。
そもそも、あなたは本当に遅れているのか
少し立ち止まりたい。あなたを焦らせているものは、何だろう。
友達の結婚報告。同僚の彼女の話。彼女いないの、というからかい。どれも、他人との比較から来ている。まわりがゴールしていくのを見て、自分だけ取り残された気がする。でも、恋愛にスタートの号砲も、締め切りもない。あるように感じるその期限は、比較が作り出した幻だ。
実際、焦って動いた人ほど、合わない相手と無理に続けて、自己嫌悪に沈んでいる。存在しない期限に間に合わせようとして、本物のつながりを取りこぼす。あなたは遅れてなどいない。ただ、他人のペースを、自分の遅れだと勘違いさせられているだけだ。その勘違いを下ろすと、急ぐ理由が、ひとつ消える。
焦りは、あなたを格好の標的にする
現実的な注意も、ひとつだけ。誰でもいいという状態は、あなたを、つけ込まれやすい相手にする。
普通のやり方では出会えないと思い込み、有料の出会い系に登録して、最初から金目的の相手に引っかかり、散財した上に詐欺まがいのトラブルに巻き込まれた、という後悔がある。焦って判断力が鈍っているとき、人は驚くほど簡単に騙される。早く満たされたいという気持ちは、それを利用しようとする人間にとって、いちばん狙いやすい隙だ。うまい話が向こうから寄ってきたら、まず自分の焦りを疑ったほうがいい。
抜け出した人が、みんなやっていたこと
では、どうすればいいのか。体験談の中で、状態が変わった人たちには、はっきりした共通点がある。意外かもしれないが、彼らは、彼女を作ろうとするのを一旦やめている。
アプリやイベントから距離を置き、趣味のサークルや、読書や、体づくりに時間を使った。すると、二つのことが起きた。一つは、自分のことが少しずつ好きになって、彼女で穴を埋める必要がなくなったこと。もう一つは、満たされてくると、力みが抜けて、自然に人と話せるようになったことだ。結果として、心地いいと思える相手と出会う機会が、かえって増えた。
つまり、抜け道は、もっと頑張って彼女を探すことではない。彼女を探す手を一度止めて、自分の生活を、自分のために整えることだ。誰でもいいから、ではなく、この人と一緒にいたい、と思える日まで、待てる自分になること。急がなくなった人ほど、関係が長続きしている。
それでも、寂しさが消えるわけじゃない
きれいに締めるつもりはない。誰でもいいという気持ちを手放したからといって、寂しさが、その日から消えてなくなるわけではない。一人の夜は、これからも時々こたえる。それは、人として当たり前の感情で、否定する必要もない。
ただ、手放すことで、少なくとも事態を悪くするのは止められる。合わない相手と傷つけ合うことも、海水を飲んで前より渇くことも、なくなる。そして、覚えておいてほしいことが一つある。あなたの価値は、彼女がいるかいないかでは、一ミリも決まらない。誰でもいい、を手放すというのは、その自分の値打ちを、他人の有無に預けるのをやめる、ということでもある。寂しさは抱えたままでいい。それでも、その寂しさに、人生の主導権まで渡してしまう必要はない。
